恋愛じかけの業務外取引
堤さんがジムから帰宅したのは午後9時10分頃だった。
「お帰りなさい」
「ただいまー。うわ、すげーいいにおいする」
「カレーだからね」
「腹減ったー。でもとりあえず風呂」
たくさん汗をかいたのか、髪のセットが崩れているし、だいぶお疲れの様子。
「お風呂から出たらすぐに洗濯するから、洗うものは投げずに洗濯機の中に入れてね」
「へいへい。俺長く浸かってられないから、15分程度で出ると思う」
「じゃあそのつもりで準備する」
脱衣所に入っていった彼を見届け、食卓の準備を再開。
野菜の水を切り冷蔵庫に入れ、スープとカレーを温めている間に、彼が浴室から出てきた。
慣れない料理をしていると、15分は短い。
「あちー。ビールまだあったっけ?」
コンロで火を2ヶ所も使っているため振り向けないが、ガシガシと髪を拭く音がする。
「冷蔵庫に2本入ってたけど」
「ラッキー」
ラブグリでも扱っている人気オーガニックシャンプーの香りが、カレーのにおいに混じって漂ってきた。
鍋がいい具合に温まってきたので、火を止め、振り返る。
「グラスは冷やしてないけどどうす……うわあ!」
飛び込んできた光景に、思わず声をあげてしまった。
「もうちょっとかわいい驚き方できないの?」
堤さんは呆れたような顔で私の後方に立っていた。
上半身裸の状態で。
かわいくなくてすみませんね。
こういう性格なんで仕方ないんですよ。
ていうか。
「堤さん、なんでそんなマッチョなの?」