恋愛じかけの業務外取引
「わかりました。次は普通とは違うカレーを作ってみせます」
やってやろうじゃないの。
ちょうどルーの素も半箱余っているし、たまねぎやにんじんも使いきれていない。
私が強気に宣言すると、堤さんはこうなることがわかっていたかのように「フッ」と笑いを漏らした。
「それは楽しみだ」
その顔から、またもや私は彼の狙い通りに発言してしまったことに気づく。
彼は私の姉御魂や負けず嫌いな性格を利用するのが本当にうまい。
こんなにハッキリ自分が操られていると実感するのは初めてだ。
主導権が握れなくて落ち着かない。
これまでの人生であまり縁がなかったが、これが年上男性とのプライベートなコミュニケーションなのだろうか。
「堤さんって、マジで掴めない……」
「マヤはわかりやすくて助かるよ」
悔しいけど、おっしゃる通りだ。
山名マヤ、下から読んでも『やまなまや』。
裏も表もないからね!
私が拗ねた顔をすると、彼がおかしそうに笑う。
左頬のアザを見ると罪悪感で喉の奥がキュッと締まるけれど、笑っている顔を見ると癒される部分がある。
りんりんファンの女子社員じゃないけれど、不覚にもキュンとする。
「ムキムキ細マッチョのくせに」
「え? なんか言った?」
「ううん、なにも」