恋愛じかけの業務外取引
「今日はずいぶん甘えてくるね」
「だって疲れてるもん。辛いもん。私だって甘えるよ」
私を癒してほしい。甘やかしてほしい。
会社では先輩だけど、プライベートでは彼女なのだから。
「俺、マヤさんはもっとしっかりした人だと思ってた」
いつも職場でビシバシしごかれている先輩が、プライベートでは弱音を吐いて甘えてくるのだから、戸惑うのは仕方ない。
だけど、彼氏なのだから、そんな私も受け入れてほしい。
「私だって女なんだから、彼氏には甘えたいし、守られたいよ。私ね、今でこそバリバリ仕事してるけど、本当の夢は専業主婦なんだ」
私の言葉を聞いた彼は、途端に表情を歪めた。
このときからもう、嫌な予感はしていた。
「いやいや、それ冗談でしょ?」
「本気だよ? 私、なにかおかしいこと言った?」
私が首を傾げると、彼は硬い笑顔を浮かべた。
「おかしくはないけどさ。俺、無理だよ」
「え、なにが?」
「嫁さんと子供を俺ひとりで養うとか、今どき普通に無理っしょ」
「今どき普通にって……時代のせいなの?」
「時代っていうか、世代? 俺そんなに出世とか興味ないしさぁ」
たしかに、彼は仕事での向上心に欠けているとは感じていた。
でも、ゆとり世代と言われる彼にも、きっと芽生えると思っていた。
例えば、恋人である私のために、とか。
「ていうか、結婚したら働く気がないとかさ。正直、期待外れなんだけど」