恋愛じかけの業務外取引
10月下旬になって、またいっそう涼しくなってきた。
私は気温に対してやや薄着であることを反省しつつ、本社を出る。
向かう先はラブグリーンマーケットの1号店。
今日はこれから雑誌の撮影とインタビューがあるのだ。
12月1日から年末にかけて行うフェアの広告を兼ねて、各誌に取り上げてもらうのである。
フェアの開催が決定したのが今月のはじめだったのに、よくこの短い期間で撮影にまでこぎ着けたと、自分たちを褒めてあげたい。
というか、私たちがこうしてどうにかできてしまうからこそ、上層部の無茶振りがなくならないのだろうが。
1号店に到着すると、撮影の準備が着々と進んでいた。
被写体はいくつかの商品と、1号店の店長である佐原菜摘(さわらなつみ)である。
菜摘はほんわかとした笑顔がとてもかわいらしくて、被写体として申し分ない逸材だ。
店長としての才覚も抜群で、スタッフからの信頼も厚い。
私は一応彼女の上司にあたるのだが、彼女の働きぶりにはいつも感心させられる。
年齢は27歳。
ラブグリでメディアの取材を受けるときは、ほぼ1号店での撮影になる。
菜摘と他のスタッフは、慣れた様子で準備を進めていた。
「菜摘ちゃん、お疲れさま」
私が声をかけると、彼女はパッと顔を上げて眩しい笑顔を向けてくれる。
「山名さん! お疲れさまです」