恋愛じかけの業務外取引
5分後。
テーブルに用意された今夜のディナーを見て、ゆるい部屋着に身を包んだ堤さんが発した第一声がこちらである。
「なにこれ?」
「なにって、カレーですよ」
香りからもカレーであることは明らかなのに、なにをおっしゃいますやら。
「カレーっていうか、タコライスっぽいね」
丸く盛られた白米の上に、ひき肉を使った水気の少ないカレー。
その上にピザチーズを乗せた3層仕立て。
見た目だけで言えば、たしかに野菜別盛りのタコライスのように見える。
「キーマカレーっていうの。この間余ったカレールーの素を使って作れるんだよ」
普通のカレーを作るよりも多少手間はかかるし、ルーだけで済まさずに味付けだってする。
だけど“煮込む”という過程がない分、普通のカレーよりも短時間で作れるのは意外だった。
「へぇ。これがキーマカレーか。聞いたことはあるけど、食ったことはなかった」
私も今日初めて作ったし初めて食べるけどね、とは言わないでおこう。
「チーズのせてるし、冷めないうちに食べて」
「はーい。いただきまーす」
彼は手を合わせるなり、スプーンですくって一口。
料理上手なユリに教えてもらったレシピ通りに作ったし、味見もした。
我ながらうまくできたと思っている。
作り手として、今日こそは「普通」以上の評価をいただきたい……!
「お味はいかがでしょうか?」
表情は努めて普通、内心はドキドキしながら尋ねると、彼はいったん咀嚼していたものを飲み込んで、ギュッと眉間にシワを寄せた。