恋愛じかけの業務外取引

これってもしかして傷害罪?

堤さんが私を警察に突き出したら、私は留置所に拘留されるの?

示談交渉には応じてくれるだろうか。

先月弟の学費でまとまったお金を使ってしまったからあまり蓄えはないのだが、いくらくらいで許してもらえるのだろう。

示談が成立しなかったら起訴される?

起訴されて裁判になって有罪判決を受けたら、私は犯罪者……?

そんなことになったら、会社はクビだ。

前科がつけば再就職は難しいだろう。

弟の学費はほぼ私がまかなっているのに、今私が仕事を失うと家計が大変なことになってしまう。

それだけのことを、私はしてしまったのだ。

自覚した瞬間、胃から喉元までを締め付けられるような苦しさを覚えた。

こんな強い罪悪感は初めてだ。

「本当にすみませんでした。でもどうか、警察と会社に通報するのはご容赦いただけませんでしょうか。私にできることはなんでもします」

腕を掴まれたまま、私は体を彼の方へ向け、縋るようにガバッと頭を下げた。

軽くカールを入れたミディアムボブの髪が、彼の腕にパラリとかかる。

血中に残っている酒のせいでクラッとしたが、グッと踏ん張って堪えた。

「ふーん。なんでもって、例えば?」

「例えば……そう、慰謝料をお支払いします。お金はあまり持ってないので高額だとすぐには準備できませんけど、なんとかします。ですから大事にはしないでください。お願いします!」

私はいっそう深く頭を下げた。

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