恋愛じかけの業務外取引
「ていうか堤さん。カレーばっか食べて、サラダもスープも食べてないじゃん」
私が指摘すると、彼は今思い出したとばかりにテーブルへと目を向ける。
「あ、カレーがうますぎて忘れてた」
「もう。子供じゃないんだから」
含みのない笑顔を見ると嬉しく感じる。
まだ治りきっていない頬のアザを見ると、自分のしてしまったことを思い出して胸が痛む。
だけど、私が頑張って作った料理を喜んでくれる姿にそこはかとない幸せを感じて、それが妙に心に滲みる。
美味しそうに食べてくれた。
たったそれだけのことでウルッときちゃうなんて、いつの間に涙腺が弱くなったのだろう。
こんなところで泣いたりしたら変に思われる。
私は目に溜まった涙をごまかすように目線を下げ、フォークでサラダを食すのに苦戦しているフリをした。
私がチビチビ食べている間に、堤さんはサラダとスープも美味しそうに平らげてしまった。
そして。
「もーらいっ!」
という声が聞こえたと思ったら、皿に半分弱残った私のカレーの一部がガボッとスプーンにさらわれていった。
「あっ!」
という間に彼の口へ消えていく。
彼はイタズラをするときの意地悪な笑みを浮かべ、味わっている。
「あー、やっぱうめぇ」
私は恨めしさを惜しみなく表情にのせて彼を睨みつけるが、彼は幸せそうな笑顔を私に見せる。
「次にマヤが来る日が楽しみだ」