恋愛じかけの業務外取引

フェアの詳細については、すでにメディアに告知してしまった。

先月撮影のあった雑誌は来週発売される。

出版社から来た記事のゲラにOKも出してしまったし、差し替えたくてももう変更がきかない。

記事には念のために『※フェアの詳細は変更になる場合もあります』と注釈があるが、だからって簡単に諦めたくない。

期待して来店してくれたお客さまに「ありません」なんて言いたくない。

「世界中の取引先に手当たり次第声を掛けてみます。弊社としても努力はしますが、お約束はできません」

「わかりました。世界のどこかに余っている可能性はありますもんね。我々も1課と世界中を探してみます」

1課とは、当社の企画営業部1課のことで、海外の企業との取引を担当している。

日本語以外扱えない私は2課に所属しており、国内の企業担当だ。

それから私たちは1課の人も交えて具体的に話し合いを進め、打ち合わせが終了したのは、午後10時を過ぎた頃。

そのあと約束通り事務作業を終えると、乗る電車は終電になってしまった。

「ああ……もう死にそう」

家に着くのは午前0時半、それから寝る準備をしたら、ベッドに入れるのは早くて2時。

朝は6時半に起きなきゃ間に合わないし、眠れるのは今日も4時間ちょっとだ。

おかげで目の下のクマは濃くなるし、奮発して買ったお高い美容液を贅沢に使っても肌が荒れる。

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