恋愛じかけの業務外取引
――ブブ
振動を感じて、バッグから携帯を取り出した。
堤さんからLINEだ。
【土曜日来れる?】
今週に入ってからは毎日この時間まで働いているので、しばらく堤さんのお世話ができていない。
先日も洗濯の要請があったのだが、仕事がこんな状況で難しそうだと告げると、案外あっさり『わかった。下手なりに自分でやるから仕事がんばれ』と言われてしまった。
なにも手伝ってはくれないけれど、堤さんは私の仕事の都合を尊重してくれるし、食費もきちんと払ってくれる。
『慰謝料の倍額分こき使ってやるよ』なんて言われてビビっていたが、一緒にご飯を食べたりお茶を飲んだり、まるで家族だ。
どうしてもシワにしてしまうって言ってたけど、ちゃんと自分で洗濯したのかな。
ご飯はなにを食べてるのかな。
この間のキーマカレーは我慢すると言っていたけれど、カップ麺で済ませたりしていないかな。
しばらく顔を見ていないけれど、そろそろアザは消えただろうか。
私は頭に家での彼の顔を思い浮かべながら画面をタップする。
【おうかがいします】
送信。
「まったく、人の心配より自分の生活なんとかしろっての」
自分で自分にツッコむと、一気に疲労が増した。
私こそ、ここ数日はコンビニ飯やカップ麺で済ませてしまっている。
多忙な商社マンである堤さんが、脱いだ服もカゴに入れずにベッドに飛び込む気持ちが、今ならよくわかる。