恋愛じかけの業務外取引
投げやりにそう言うと、ふと彼の体が少し離れた。
直後、右の頬に柔らかい感触が走る。
ちゅ、というリップ音。
自分では見えなかったけれど、なにをされたのかは明らかだった。
「ちょっ……! なにするの」
慌てて体を引き、彼の方を見る。
しっかり腰を寄せられているため離れられず、至近距離に彼の顔がある。
「マヤがあまりにかわいいから、我慢できなくて」
「はぁ?」
今さらだけど、近い!
気をつけていないともっと大変な部分が触れてしまいそう。
しまった、と思ってももう遅い。
主導権は彼に移ってしまっていた。
「取って付けたように褒めたわけじゃないよ」
メガネ越しの哀願するような瞳。
やけに鼻をくすぐる彼のにおい。
おとなしかったはずの心臓が、いつの間にかバクバク踊り狂っている。
「わかったから、放して」
「逃げない? 許してくれる?」
この手の甘い顔をした人種は、許しを請う顔が得意だから腹が立つ。
そして私は、この手の顔にとことん弱いタチだ。
「逃げないよ。許さないけど」
睨みつつ告げると、彼は私を解放する前に手を取った。
繋いだ手を引っ張られ、彼の部屋へ連行されてゆく。
「堤さんって、キス魔だよね」
額にキスをされたと、ユリに聞いた。
初めてこの部屋に来たときは、アザになっていた手にキスされた。
「あはは、そうかもな。かわいいと、ついしたくなる」
「その癖、捕まる前に直した方がいい」
「別に、誰にでもするわけじゃねーし」