恋愛じかけの業務外取引
じゃあ、どうして私にはするの?
そう尋ねたかったけれど、口が動かなかった。
妙な期待が頭をよぎって、恥ずかしくなった。
だって、酔った勢いで自分を殴った女なんかにそんな感情を抱くわけがない。
……それでも。
抱きしめられたし。手、繋いでるし。
最近本当に、距離感がおかしいのは確かだ。
それをちっとも嫌だと感じない私も、たぶんどうかしてるんだと思う。
「ただいまー」
「おじゃまします」
手を繋いだまま彼の部屋に入る。
扉が閉まり施錠されたタイミングで、手が解放された。
彼は先に部屋へと入っていったけれど、私が靴を脱ぎ部屋の中に上がるまで、私から目を離さなかった。
そして。
「なにこれ……」
初めてこの部屋を訪れた日ほどではないが、足の踏み場が著しく乏しい。
玄関を入ってすぐのダイニングキッチンの床には、脱ぎ捨てられた衣類やマンガ雑誌、そして郵便受けに投函されたと思われるチラシやDMが散乱している。
キッチンの調理台は空いたペットボトルや缶、そしてカップ麺やコンビニ飯の空き容器で埋め尽くされていた。
流し台に食器は見当たらない。
カレーを食べるのは本当に我慢したらしい。
私が1週間と少し来なかっただけで、どうしてこうなっちゃうの。
という気持ちを込めて堤さんを見ると、察したように苦笑を浮かべる。
「じゃ、俺ジム行くから。我が家をよろしく」
「……はい」