恋愛じかけの業務外取引
夕方5時前。
スーパーで夕食の材料を買ってアパートに戻ると、駐車場に堤さんの車が停まっていた。
買い出しに行っている間に帰ってきたらしい。
鍵は持っているが、一応チャイムを鳴らして彼に扉を開けてもらう。
「マヤ、おかえりー」
「ただいま」
人の家なのにただいまだなんて、変な感じ。
扉の内鍵も締め慣れてしまった。
「超片付いたな。部屋がキレイなの久しぶりだ」
ニコニコ笑って喜んでいるが、さっそく床にスポーツバッグが放置され、ジムで着たと思われる衣類が袋に入れられたまま洗濯カゴのそばに投げ出されている。
「もう、言ったそばからもう散らかしてるじゃん。汗かいた服はすぐ洗うから、洗濯機に入れてって前に言ったでしょ」
「へーい。すんませーん」
私が買ってきたものを冷蔵庫に入れている間に、彼が自分で洗濯機に衣類を入れる。
洗濯機の操作は私の仕事だ。
彼はボタンひとつで洗える「おまかせコース」しか使ったことがないようで、私が細かく時間設定する様子をもの珍しそうに眺めた。
「マヤが操作してんの、すすぎの回数と脱水時間だったんだ」
「うん。この洗剤はすすぎ1回で大丈夫だし、脱水が長いとシワになりやすい服があるからね。ほら、このシャツとか」
「あー、だからか」
「柔軟剤を使うときはすすぎ2回にしなきゃダメなんだけど、堤さんは使ってないみたいだし、もったいないもん」