恋愛じかけの業務外取引
ムスッと不服そうに自分の顔に手を滑らせる。
堤さんはたしかに強そうに見えない。
顔だけ見れば完全に優男だし、脱ぐとマッチョなのを知ったときは奇声を発すほど驚いた。
「もしかして体鍛えてるのは、強そうな男に見られたいから?」
彼は図星を突かれたように表情を強張らせた。
「なんだよ悪いかよ。この顔のせいで、昔っから人にナメられっぱなしなんだよ」
「あっははははは!」
なにそれ、おかしい。
仕事のときはその顔をあざとくフル活用しているし、うちの会社にまでファンがいる好青年。
そのいい人そうな雰囲気と美貌で、人に取り入るのが驚くほど上手い。
バキバキの腹筋や背筋なんかより、その顔の方がよっぽど頼りになると思うんだけど。
「言っとくけどな、笑い事じゃないんだぞ。男にとっては仕事でもプライベートでも、それが結構大事なことなんだよ。俺がまだ独身なのは、絶対この顔のせいなんだからな」
「いやいや、その顔は武器だと思うけど?」
彼はますます頬を膨らませる。
言い訳をする少年のようでかわいい……なんて言ったら、彼はいっそう拗ねてしまいそうだが。
「バカ言え。こんな顔してるとな、“頼りない”って思われて敬遠されるんだよ。寄ってくる女は“優しい男を自分の思い通りにしたい”と思ってる高慢なタイプばっかで、いざ付き合ってみても実際はこんな性格だからケンカになるし、“思ってたのと違う”って振られるし、全然うまくいかねーの」