恋愛じかけの業務外取引
仕方なさそうにサラダを食べ始める堤さん。
しばらくして空いたスープパスタの皿に置いておいたスプーンを握ったと思ったら、私がサラダに手をつけている隙をついて私のパスタのスープをすくい奪っていく。
「もーらい!」
「あ、こら」
こんなやり取りがいちばん幸せだと感じるのだから、私はそろそろ認めるべきなのだろうか。
この落ち着かない気持ちの正体を。
「食器洗うから、このグラスも下げていい?」
食事を終えてキビキビ働く私の問いに、ベッドに横たわってテレビを見ている彼は間の抜けた声で答える。
「いいよー。それと、洗い物終わったらコーヒー淹れて。ふたり分」
「私も?」
「うん。おやつ買ってきたから、一緒に食おうぜ」
「おやつ? 珍しいね」
この部屋に出入りするようになってからは、初日に私が持ってきた菓子くらいしか食べた形跡はなかったし、体型をキープするためにも間食はほとんどしない人なんだと思っていた。
「まあ、たまにはね。冷蔵庫に入れといた」
そういえば、冷蔵庫に見覚えのない箱が増えていた気がする。
存在には気づいていたけれど、彼の冷蔵庫だし、それがなにかまでは気にしていなかった。
「なにを買ってきたの?」
私がそう尋ねると、彼はなぜか少し照れた顔になって、私から目を逸らしテレビの方を向いてしまった。