恋愛じかけの業務外取引




なんだか暑いなぁと思って目が覚めた。

夢うつつで薄目を開けるが、まだ暗い。

今何時だろう。

携帯で時刻を確認しようと手を動かす。

あれ、なんかおかしい。

携帯がいつものところにないし、シーツを触っている感触も、いつもと違う。

「ん……」

と男の掠れた声が聞こえたと思ったら、右から温かくて大きなものがこちらに迫ってきて、腹部になにかが巻き付いた。

「マヤ……もう少し寝かせて……」

吐息混じりの声が耳元をかすめて、あやうく悲鳴をあげそうになった。

ちょっと待て。ここはまさか。

おそるおそる腹部に巻き付いたなにかに触れてみる。

案の定、それはやけに筋肉質な男の腕だった。

そして状況を理解する。

私はたった今まで、堤凛太郎のベッドで眠っていたのだと。

「うそでしょ……」

急にせわしなくなった心臓を服の上で押さえながら記憶をたどってみる。

私は食後、食器を洗って片付けてからコーヒーを淹れて、ふたりでベリーのタルトを食べた。

タルトはこのあたりの地域で一番美味しいと評判のお店のもので、私は幸せな気分だった。

でも、食後すぐにタルトを食べてしまったから、食べ終えると満腹で、苦しくて。

堤さんが『腹が落ち着くまでゆっくりしてけば?』と言ってくれて……。

それ以降の記憶がない。まったくない。

私、ゆっくりしすぎて眠っちゃったんだ。

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