恋愛じかけの業務外取引
いつもの私をイジるための冗談なのだろうと思う。
でも、彼が私を“そういう対象”として受け入れてくれるのだという嬉しさが混じり、なんともいえないこそばゆい気持ちになる。
彼への気持ちを認識したばかり。
これからどうすればいいのだろう。
取引先の人との恋愛を禁止されているわけではないけれど、極力避けるのが暗黙の了解。
彼の頬のアザは消えても、私が彼を殴打した事実が消えることはない。
私は彼と恋人同士になることを望んでもいいのだろうか。
彼に愛されることを、願ってもいいのだろうか。
「ていうかマヤ、目ぇ覚めたならシャワー浴びてくれば?」
「へ?」
シャワーって、どういう意味?
まさかすでに私の気持ちがバレてて、朝っぱらからそういうことをするつもり、とか……?
「裸眼で見てもわかるくらい、顔が酷いことになってんぞ」
……ああ、そっちね。
メイクがドロドロに崩れて、昨日の言葉を借りれば『ブス』ってことね。
わかってた。
恋愛モードになったからちょっと色っぽいことを想像してしまっただけで、どうせそういう意味だろうってちゃんとわかってた。
「そうだね、そうしようかな」
これ以上、好きな人にブス顔晒したくないし。