スイッチ
交差点の向こうに駅が見えた所で、手前によく知る顔が見えていた
駅の外に設置された椅子に座り、文庫本だろうか……本を読んでいた
「淳………待ってるや」
信号が青になったのをしっかり確認し、また走り出す
たぶん足音が響いたのだろう、文庫本に向けられていた淳の目線がこちらに向けられ、すぐその顔は笑顔になった
笑顔といっても、微笑みのような笑顔ではなく、私のボロボロな姿に対して苦笑しているような、そんな顔だった
「淳!遅くなってごめんね!」
やっと淳の目の前にたどり着いた時には、せっかくセットした髪の毛は乱れ、全力疾走した証に額に汗が浮かんでいた
我ながら最悪な登場だ………
「いや、まだ待ち合わせ5分前だし……
そんな必死に走ってこなくて大丈夫だったのに
何?寝坊でもしたのか?」
「………うん」
「やっぱり(笑)
髪の毛巻いてきたのか?
あーあー、せっかくセットしたんだろうに、こんなにぐちゃぐちゃになって……」
「だって……淳待たせちゃダメだと思って」
「ん、走って来てくれてありがとうな」
乱れた髪の毛を直すように、優しく私の頭をなでてくれた
「俺ここで待ってるから、トイレ行って整えてくれば?
ゆっくりでいいから」
そんな優しい気遣いも昔はなんとも思わなかったとは、なんてバカなんだって、昔の私に言ってやりたい
「淳、ありがとう!
すぐ戻ってくるから!」
それから、急いで乱れた髪を整えに向かった