声にできない“アイシテル”
「・・・何なんだよ、あいつ」



 ぼそりと呟いたのを、教室まで忘れ物を取りに行って帰ってきたばかりの小山に聞かれる。

「あいつって?」


 俺はすでに10メートルほど先の少女の背中を指差した。


「ああ、チカちゃんか」

「チカちゃん?」

「そ、1年の大野 チカちゃん。
 俺のイトコなんだ。
 まぁ、転入3日目の桜井は知らないか。
 さらさらのショートカットに、ぱっちりの瞳。
 色が白くてちっちゃくて、かわいいよな」


 すごく嬉しそうに話す小山。

 きっと、あの少女とは仲がいいのだろう。



「あ、ああ。
 そうかもな」
 
 興味のない俺はあいまいな返事をする。



「性格も素直で、すっごくいい子だよ。
 だけど」


 ほんの少し、小山の声が暗くなる。

「チカちゃん、声が出ないんだ」






「―――え!?」

 驚いて隣りの小山を見る。



 奴は『あんまり人に言うことじゃないんだけど』と前置きしてから、小さい声で話し始めた。
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