声にできない“アイシテル”
 あわてていた私も悪いんだし。

 本当は私も『ごめんなさい』って言いたかった。


 だけど、言えないから。


 ただ、首を振る。



 そして、謝る代わりに先輩のカバンに付いたほこりを払う。


 出来る限りきれいにして差し出したのに、先輩はムッとする。


「あんた、何でしゃべんないの?
 黙っていられると気分悪いんだけど」



―――え!?

 自分に向けられる冷たい言葉にびっくりして、思わず先輩の顔を見た。



 先輩はイライラとしているのを隠そうともしていない。




―――私が話せないってことを、まだ知らないんだ。
   

 それじゃ、こんなこと言われても仕方ないよね。




 泣きそうになるのを、唇をかみ締めて我慢する。




―――こんなの、いつもの事だもん。








 私は頭を下げて、その場を立ち去った。
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