声にできない“アイシテル”
 11月ともなると、いくら温暖な静岡とはいえ吹き抜ける風は冷たい。


「なぁ、桜井。
 帰りに肉まんでも食わないか?」

「そうだな」

 3階の廊下を歩きながら、ふと窓の外に目を向けた。


 はるか遠く、校舎裏に続く細いわき道を数人の女子が歩いている。


―――あれはっ!?

 窓に駆け寄り、ガバッと身を乗り出してじっと見る。


 明るい髪の女子たちに囲まれて、うつむきながら歩いている一人の小柄な黒髪の少女。

 ショートカットで黒髪の女子は、この学校に一人しかいない。



 俺は前に滝沢から聞いた話を思い出した。

 ファンクラブ会長の松本を中心とした女子たちが、俺に近づく女子を排除しているということを。



 腕をつかまれて無理やりに歩かされているあの子の様子を見て、松本たちの容赦のないところが恐ろしくなる。


―――もし、あの子に何かあったら・・・?!

 考えただけでゾッとする。


 助けに行かないと!

 あの子には傷ひとつ負わせたくない!



 俺が・・・、俺が守ってやらないと!!
 
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