声にできない“アイシテル”
 だけど、すねて見せたのは一瞬で。

 エヘヘ、と笑いながら俺にメモを差し出してきた。


“先輩はイメージとぜんぜん違いますね。
 みんなは『クールだ』って言うけど、本当は笑ったり、怒ったりするし”
 
「周りの女子からいろいろ言われて、うんざりしてるからなぁ。
 クールってよりも、不機嫌だっただけかも。
 普段はそんなんじゃないんだけどね」


 彼女はフフッと笑って、ペンを進める。

“それに、優しいです。
 初めて図書室でお話した時、友達から聞いていたのとずいぶん違うんだなって。
 それからちょっと気になっていたんですよ。
 はっきり自覚したのはずいぶん後でしたけど”


「俺も考えれば、最初からチカちゃんが気になっていたのかもしれない」


 図書室でのやり取りを思い出す。

「俺の心無い言葉で傷ついたはずなのに、“慣れてるから平気です”って寂しそうに笑う顔が忘れられなかった。
 自分の外見のことを言われるのは大嫌いなのに、チカちゃんにカッコいいって言われて嬉しかった。
 女子は近くにいるだけでもうっとうしいのに、チカちゃんがそばにいるのは心地よかった」


 ふぅ、と息を吐いて彼女を見る。

「他の女子は邪魔なだけなのに、チカちゃんは違った。
 俺にとって、チカちゃんは運命の人なんだと思う」


 初めて逢った時から、特別な存在だった。




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