声にできない“アイシテル”
 真剣に語った俺の言葉を、彼女はどこかぼんやりと聞いていて。

「チカちゃん?」


 彼女はゆっくりと瞬きをして、ペンを動かす。

“先輩が私のことを好きってことが、やっぱりまだ信じられなくて。
 前に、私は恋愛小説を読まないって言いましたよね?”


「覚えてるよ」

 すごくつらそうな顔で涙をこらえていたっけ。


“自分に恋愛は出来ないって本気で思っていたんです。
 私を好きになってくれる人はいないだろうって。
 だって、私には想いを伝える『声』がないから”


 うつむく彼女の肩が震えたように見えた。


 泣いてしまうんじゃないかと思った俺は、そっとその肩を抱き寄せる。




 しばらくじっとしていた彼女は再び手を動かす。


“先輩は誰もが注目するほど素敵だし。
 私は何のとりえもない上に、話すことが出来ない。
 つまり障害者です。
 先輩とはあまりにも不釣合いで、好きでいることがつらかった・・・。
 私にあれこれと手を貸してくれたことは嬉しかったです。
 でも、私がかわいそうだから手伝ってくれてるんだって思えて。
 嬉しいのに、悲しかったです”

 彼女は手を止めた。


 続きを書こうか、やめようか、迷っているみたいだ。




 動かないペン先を2人で見つめる。
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