声にできない“アイシテル”
「そんなことあるって」


 彼女の手首をつかんでグイッと引き寄せる。

 よろけたチカが俺の胸に倒れこんできて、それを抱きしめる。


「小さいから、俺の腕にすっぽり収まるよ。
 ちょうどいいサイズだね」

 クスクスと笑いながら彼女の耳元でささやく。


 するとチカの耳が、怒りとは別の意味で赤く染まった。




 
 その後はおとなしく自習をして、チカの仕事が終わるのを待っている。


 時々チカが俺を見て、さっきの照れ隠しにべぇっと舌を出してくるけど。

 俺がずっとニコニコしているからあきらめたらしく、もくもくと作業をしている。



―――チカは見ていて飽きないよ。


 彼女といると、つまらないと思うことがなくなった。

 人生が変わったといえるかもしれない。


―――小山の言うとおり、ぜんぜん違うな。


 そう思えるようになったのはチカがいるから。



―――彼女の何が俺を変えたのだろう・・・?




 ぼんやりと考えながら、俺は教科書に視線を落とした。
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