声にできない“アイシテル”
 ふっ、と我に返ると、目の前の彼女はあっけにとられてポカンと口を開けている。



「あっ、ごめん」

 俺はあわてて彼女から手を放した。


「謝りに来たのに、怒鳴ったりして悪かった・・・」


―――まったく、何やってんだ、俺?


 あまりの失態に自分が情けなくなる。

 シュンと俯き、ガックリと肩を落とす。



 すると、前に立つ彼女がぷっと吹き出し、ケラケラと笑い出した。


 いや、もちろん声は出てないんだけど。
 
 そんな風に、見えた。






「えと・・・、何?」

―――なんで、笑われてんの?

 今度は俺がポカンとする。


 体をくの字に曲げて笑い続けた彼女が、ようやく落ち着いてメモに書き込んでゆく。


「 ええと。
“不機嫌だったり、申し訳なさそうな顔したり。
 大きな声を出したと思ったら、落ち込んだりして。
 忙しい人だなぁって思ったんです。
 気を悪くしたなら謝ります。
 ごめんなさい”」


 俺が読み終えると同時に、ペコリと頭を下げる彼女。
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