声にできない“アイシテル”
「あ、いや・・・。
 気なんて、全然悪くしてないから」


 そう言うと、彼女は胸に手を当ててホッと息を吐く。

 その仕草に、俺もホッとする。



「俺もさ、言葉で傷つけられたり、裏切られたりした事があるから。
 そのつらさは分かるんだ。
 だから、ついムキになって・・・。
 驚かせて悪かったよ」

 バツが悪い俺は頭をかいた。


 くすっと笑った彼女は首を横に振る。

 今度は悲しそうな瞳じゃなくて、穏やかな笑顔。




「それと、このバッグのホコリ払ってくれてありがとう。
 すっかり綺麗になったよ 」
 
 俺は手にしていたバッグを少し持ち上げた


 彼女は少しはにかんだ笑顔と共に、メモを差し出す。

“私は「ごめんなさい」が言えないから、態度で示すしかないんです。
 でも、分かりづらいですよね”


「ううん。
 俺が冷静だったら、きっと気付けてたよ。
 一生懸命だってのは分かっていたから」


 俺を見る彼女の瞳が、柔らかく細められる。


 彼女がわずかに首を傾けると、サラサラの髪がなめらかな頬の上で少し揺れた。
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