声にできない“アイシテル”
「今、“大好き”って言った?
 言ったよな!?」

 思わず大きな声を出して立ち上がる。


 そんな俺にチカはギョッとして、あわてて立てた人差し指を唇に当てる。

“シーッ!
 シーッ!”


 周りを見れば、ほかの席のお客さんが『何事か?』という目をしていた。


「ご、ごめん。
 嬉しくって、つい・・・」


 肩をすぼめてシュンとなると、チカがしょうがないなぁって顔で笑った。





「あのさ、今みたいにすればチカの手は痛くならないし。
 俺が手話を知らなくても、問題ないよな?」


 長時間のおしゃべりでも、チカに負担をかけないですむ。

 ナイス・アイディア。


 だけど、チカは申し訳なさそうに視線を落としてメモに書く。

“そうだけど。
 読唇術って読み取る人が大変なんだよ?
 今みたいに短い言葉なら分かっても、会話並の長さになると本当に難しいから。
 私の家族でも、すらすらと会話するまでにはなってないし”


 何年も一緒に暮らしている彼女の家族ですら難しいという読唇術。


 わずか1ヶ月付き合ったくらいの俺には不可能に近いかもしれない。

 それでも、やらないうちからあきらめるなんてイヤだ。

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