声にできない“アイシテル”
「じゃ、俺そろそろ行くから。
 作業の邪魔してごめんな。
 大野 チカちゃん」

 どうしてだか、彼女の名前がするりと口からこぼれた。


 ビクッとした彼女が、大急ぎでメモを書いてみせる。

“どうして私の名前を知っているんですか?”


「ああ、さっき友達が言ってた。
 可愛くって有名なんだってね」


 すると、真っ白な頬を桃みたいにピンクに染めて、また何やら書いている。


“私は可愛くなんかありません。
 子供っぽいだけですよ。
 それに、有名というなら桜井先輩のほうです“


 見せられたメモにはそう書いてあった。



―――なんで1年が俺のことを?

「どうして俺の名前知ってんの?」


 クスクス笑いながら、彼女はペンを走らせる。

“すごくかっこいい先輩が転校してきたって、友達が大騒ぎしているんです。
 それで、名前を知りました“


―――あー、なるほどねぇ。


 やれやれ。

 同じ学年だけじゃなくて、1年でも騒がれてんのか。



 普通なら喜ぶところだろうが、俺としては気が重いだけしかない。

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