声にできない“アイシテル”
―――どうしよう・・・。


 野良犬はまだそこにいる。


 時間はどんどん過ぎていって、辺りはだいぶ暗くなってきた。

 迷った挙句、私はお財布から小銭を取り出す。


―――お母さんなら分かってくれるかもしれない。

 かすかな期待を胸に、私は家に電話をかけた。


 数回のコール音の後、つながる電話。


『はい、大野です』

―――お母さん!!

 私は受話器を握り締め、出せない声で大きく叫ぶ。


『もしもし?
 どちら様でしょうか?』


 なかなか私だとは分かってもらえないみたい。


―――お母さん、お母さん!!

 心の中で何度も叫ぶ。





 だけど・・・。


 プツッと音がして、切れてしまった。
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