声にできない“アイシテル”
 かなりの時間呼び出した後、聞きなれた彼の声が届いた。


『もしもし?』

―――よかった、出てくれた!!


 でも、私は何も話せない。

 このままじゃ、お母さんのように電話を切られてしまう。


―――そうだ、何か音を出せば!

 とは思ったけど。

 すぐに家に帰るつもりだったから、今持っているのはお財布とつながらない携帯電話。


 音が出せそうな道具なんてない。


―――どうしよう。

 受話器を握り締める。



 目に入ったのは震えている自分の手。


―――あっ。

 私は急いで口話部分を指先でたたく。


 爪が当たって、カツン、カツン、と無機質な音が電話ボックスに響いた。



< 201 / 558 >

この作品をシェア

pagetop