声にできない“アイシテル”
 チカが生まれてから一緒にいる家族よりも、一ヶ月しか一緒にいない俺が気付いたことがなんとなく申し訳なくなって、あわてて口を挟む。


「い、いえ、そのっ。
 俺に電話をかけてくる人は限られてますので、それでたまたま。
 そういう勘はいいほうなので・・・」

 でしゃばったことをしたみたいで気が引けて、ちょっと言い訳めいたことを口にする。


 お母さんはいやな顔はしてないけど、不思議そうな表情。

「それにしても、よくチカのいる場所まで分かりましたよね?
 メールじゃなかったんでしょ?」

「あ、はい。
 俺の携帯に“公衆電話”の表示が出ていたんです。
 それで、このあたりで電話があるところを探して」


 俺があげた指輪のおかげで居場所に気付いた、という話は今は内緒にしておこう。

 いろいろ尋ねられると恥ずかしいから。




「そうでしたか。
 本当にありがとうございました」

 お母さんが頭を下げる。


 視線を下げたお母さんが、チカの足元に目を向けた。

「あらやだ。
 チカ、スカートが汚れてるわ」

“あ、本当だ”

 見ればスソに少しだけ土がついている。


「すぐに着替えてきなさい」


 言われてチカが席を立って出て行った。
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