声にできない“アイシテル”
「でも・・・」

 お母さんは俺の言葉が信じられないようだ。


「自分の娘を悪く言うつもりはないけど、ほら、あの子はしゃべれないでしょ?
 なのにあなたのような素敵な人が彼氏だって言われても、信じられないのよ」


 娘が彼氏を連れてきたことに浮かれるんじゃなく、現実を考えている。

 『チカが話せない』という現実を見て、物事を冷静に見ている。

 チカが傷つくことのないように、俺の本音を探ろうとしている。

 

 だから俺は分かってもらうために正直に話す。

「遊びじゃありません。
 真剣です。
 それと、俺はちっとも素敵じゃないです」

 たまたま、ちょっとだけ人より良い外見に生まれただけ。

 

「そんなことないわ、本当に素敵よ。
 背も高くて、顔立ちも整っていて、マナーもいいし。
 こんなかっこいい人、女の子が放って置くはずないわよ」


「あ、まぁ。
 騒がれるとはよくあります。
 ・・・でも、俺はそういう人たちのことを信用していませんでした」



 これまで浮かべていた笑顔をすっと消して言った。





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