声にできない“アイシテル”
「それは、どういうことかしら?」

 俺の表情の変化に、お母さんが少し戸惑った声を出す。


「小学生の時につらい事があって・・・。
 それ以来人の言葉、特に自分に向けられる好意を信じることが出来なくなってしまったんです」


 この世の不幸をすべて背負ったあの日。

 今思い出しても、まだ心の奥が冷たくなる。


 人としての温かい心をなくして生きていたそんな俺の前に、チカが現れた。

 


 顔を上げて、まっすぐとお母さんを見る。

「だけど、そんな俺をチカさんが変えてくれました。
 彼女のしぐさには言葉以上の力があって。
 それとチカさんの素直で優しい心が、俺に人を信じる気持ちを取り戻させてくれたんです」


 俺は再び穏やかに微笑んだ。

「俺はチカさんに救われたんです
 こんなに素直で優しくて、かわいい女の子は他にいません」


 前もって考えていたわけじゃないのに、スラスラと口から出てくる。

 それは、俺の正直な気持ちだから。


 





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