声にできない“アイシテル”
 今週はこの先輩と昼食の時間が重なるらしく、休憩室でよく顔を合わせる。


 先輩は12時30分になると携帯を見つめて、落ち着きがない。。

 どうやら彼女さんからかかってくる時間が決まっているらしい。

 
 今日も嬉しそうに話を終えた先輩。


「電話がかかってくるのをソワソワ待つなんて、先輩は見かけによらずかわいいところありますねぇ」

 大学ではラグビー部の主将だったという3つ年上の先輩に、俺はくすくすと笑いながら話しかける。


「何とでも言え。
 恋人の声が耳元で聞けるんだ。
 こんな幸せなことないぞ」

 満面の笑みを浮かべる先輩。


「・・・え?」

 反対にこわばる俺。




 これまでほかの恋人たちをうらやましいと感じたことはなかった。

 俺とチカには、俺たちなりの付き合い方があると思っていたから。


 今も、昔もチカに不満なんてない。

 俺の彼女がチカでよかったと思ってる。



 ただ。

 その先輩がものすごく嬉しそうに、幸せそうに笑うから。

 
 彼女さんのやり取りがうらやましいと思ってしまった。




 胸の奥のチクッという痛みが、大きくズクンとうずく。


 それ以来、どことなくぎこちない空気が俺を包んだ。
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