声にできない“アイシテル”
「そっかぁ。
 6年も経つと、チカちゃんもこんな素敵な人とお付き合いするようになるのかぁ。
 昔は俺の後を離れないちびっ子だったのに」

“そうだったっけ?”

「何だ、忘れたのか?
 チカちゃん、こんなことも言ってたぞ。
“トオルお兄ちゃん大好き。
 大きくなったら、お兄ちゃんと結婚する”ってね」

 ニヤニヤとからかうように笑う徹さん。


 でも、瞳は意地悪じゃない。

 優しく温かい瞳。

 純粋に昔を懐かしんでいるだけなんだろう。


 だけど、俺の心がざわりと波立つ。



“エー!!
 ぜんぜん覚えてないよぉ”

 チカは一生懸命思い出そうとしているけど、無理なようだ。


“それ、嘘じゃないの?”


「確かに言ったんだよ。
 ま、小学校に入る前のことだけどね」


“なんだ。
 そんな昔のことかぁ。
 よく覚えてるねぇ”


 チカと徹さんが盛り上がっている中、俺はその様子を少し離れたところで見ていた。

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