声にできない“アイシテル”
 今井さんに連れてこられたのはひっそりとした店構えのバー。

 知らなければ通り過ぎてしまいそうだ。


 だけど中に入ると壁や床が明るい木目で出来ていて、すごくいい店だと分かった。



「へぇ。
 こんなにいいお店があったんだ」

 カウンターに今井さんと横並びに座る。

「でしょ?
 偶然見つけたんですけど、すっかり気にってしまって」


 50歳くらいの男の人が静かに微笑んで、頼んだ酒を出してくれた。


 ここのマスターだろう。

 後ろに軽く流しているロマンスグレーの髪が渋くて、かっこいい。


「俺も気に入ったよ。
 店はおしゃれで、酒もうまくて。
 マスターも素敵な人だし」


「・・・桜井さんのほうが、何倍も素敵です」


 俺にだけ聞こえるように、今井さんがささやいた。


 いつもの明るい口調とは違う、艶っぽい声で。

 

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