声にできない“アイシテル”
「・・・は?」

―――この状況で何もなかった?!

 彼女の言葉がいまいち信じられなくて、パチパチと瞬きを繰り返す。



 あっけにとられている俺を見て、今井さんがくすっと笑った。

「何もなかった・・・と言うのは、少し違いますね。
 抱きしめられて、髪やほほをなでられて。
 それから・・・」


 抱きしめたこと自体、結構なことだと思うけど。

―――『それから』って、まだ何かしたのか、俺!?


 ごくりと息を飲む。





「それから、私のことを“チカ”と呼びました」


「・・・えっ!?」


―――チカ?!


 さっきよりも更にあっけにとられた。


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