声にできない“アイシテル”
 抱き寄せていた腕の力を少し緩めて、チカを解放する。


 彼女は首をかしげて不思議そうな顔。

 どうして俺が謝っているのか、まるで分からないって表情だ。



 しばらくその格好で俺を見つめていたチカが、不意に微笑む。

“お仕事、忙しかったんでしょ?
 ご苦労様。
 私も会いたかった”


 優しい笑顔を浮かべて、そっと俺のほほに触れてくる。

“ここ、少し赤くなってるよ。
 大丈夫?”


 その手の平から体温以上のものが伝わってきた。


 何気ない仕草の中に、俺に対する“愛してる”が溢れている。


 今、この仕草だけじゃない。

 俺と付き合い始めてから、これまでもずっと、チカは視線や表情、仕草にありったけの“愛してる”を込めていたはずなんだ。


 分かっていたのに・・・。
 
 分かっていたかもしれないけど、いつの間にか慣れてしまって。


 彼女の愛情を感じ取ることをサボってしまった、と言うべきかもしれない。



―――自分が愛されたいなら、まず相手を愛さないと。


「愛してるよ、チカ」


 俺は改めて強く強く、彼女を抱きしめた。
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