声にできない“アイシテル”
「そうだな」

 マグカップを受け取って、俺はいつもより弱い微笑みを返した。


「・・・ね、チカ」


“何?”

 俺の左に腰を下ろしたチカが、首を傾げてこっちを見てくる。


「もし金も仕事もなくなったら、俺のこと嫌いになる?」


 このままずっと叔父さんたちとの関係が平行線ならば、俺はあの家を出ることになるかもしれない。

 そんなことになったら仕事も、家も、財産も、何もかもが一度になくなってしまうだろう。


 それでも、俺にはチカしかいないから・・・。




“いきなりどうしたの?”

 チカが変な顔をして訊き返す。


「ま、例えばの話だよ。
 どう?」


 チカは数回瞬きをすると、ニコッと笑う。

“嫌いになんてならないよ。
 そんなの決まってるじゃない。
 何があっても、アキ君はアキ君だもん”

 即答してくれる彼女が嬉しかった。。




「・・・ありがと」

 俺は彼女を抱き寄せた。


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