声にできない“アイシテル”
 もらい泣きしてしまいそうなところを、グッと我慢する。

“実は、アキ君が出張から帰ってきたら話そうと思っていたんですけど。
 私、留学しようかと考えてます”

「留学?」

“はい。
 イギリスで本格的に絵本の勉強をしようと考えていたんです。
 これまで迷っていましたけど、これで心が決まりました”


 アキ君に話して、彼がいい顔をしなかったら留学はやめてもいいと思っていた。


 でも、その迷いはなくなった。

 日本を離れることは、私にとってアキ君と別れるいいきっかけ。



“少なくても2、3年は勉強してくる予定です。
 帰国するころには、彼は私のことを忘れているでしょうね”


 忘れられてしまうのは寂しいけど。

 アキ君が思い出を引きずっていたら、新しい彼女や奥さんになる人に悪いもの。



 だから、彼が私のことなんて忘れてしまうように。

 嫌いになってしまうように。


 ひどい別れ方をしよう。

 何も言わずに姿を消そう。

 

 いくらアキ君が優しい人でも、こんな別れ方をする私のことなんて許してくれるはずないもの。


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