声にできない“アイシテル”
 別れたくなんてなかった。

 離れたくなかった。


 本当は泣いてわめいて。

 叔母様に土下座してでも、彼との付き合いを許して欲しかった。


 こんな私を優しく愛してくれている彼と『別れてくれ』なんて、たとえ冗談でも言って欲しくなかった。




 だけど。

 私1人と桜井グループを天秤にかけたら、どっちが重要かなんて一目瞭然。


 叔父様と叔母様が必死で育て上げたあの会社をちっぽけな私のために捨てるようなことは、彼にさせるわけにはいかなかった。


 叔母様に見せたのは、精一杯に強がっていた私。

 

 涙は次々とこぼれて、目の前の缶コーヒーがぼやける。


 私はじゅうたんの上に身を投げ出した。








< 312 / 558 >

この作品をシェア

pagetop