声にできない“アイシテル”
 翌朝。

 玄関で靴を履いていたらお母さんが後ろに立った。


「チカ。
 桜井さんは知ってるの?」


 ビクッ。

 私の肩が小さくはねる。

―――やっぱり、お母さんは気付かれちゃったかな?


 でも、ここでバレるわけにはいかない。


 靴を履くことにまごつく振りをして、私は時間を稼ぐ。

 その間に深呼吸を繰り返し、自分を落ち着かせる。


 かなり時間をかけて靴紐を結び終え、ゆっくりと振り向く。

“もちろん、知ってるよ。
 彼は私の夢を誰よりも応援してくれてるんだから”


 にっこりと笑うと、お母さんも一応は納得したみたい。


「それならいいけど。
 留学中はどこに泊まるの?」


“先輩に紹介されたところ。
 住所と電話番号はこれね”

 私は手帳に挟んでいたメモをお母さんに手渡す。


 
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