声にできない“アイシテル”
“そろそろ空港に行かないと”

 大きなスーツケースに手をかけて、私は立ち上がった。



「週に一度は手紙を出しなさいよ」

“分かってるって。
 向こうに着いたら、すぐに手紙書くから”

「気をつけるのよ」

“うん、じゃあね”

 お母さんに手を振って玄関を出た。







 駅までの道を歩きながら、心の中で呟く。

―――お母さん、ウソ付いてごめんね。


 職場の人に宿泊先を紹介してもらったなんて、ウソ。


 確かに紹介はしてもらったけど、あとからこっそりとキャンセルをした。

 そしてインターネットを使って、自分で住む場所を探した。


 さっき渡したメモの住所に、私が行くことはない。



 少しでも私の行き先が分からないようにするために、ウソを付いた。

 そうしないと、アキ君が調べ上げて私を見つけてしまうかもしれないから。



 私がどこに行くかは、私しか知らない。
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