声にできない“アイシテル”
 プレゼントされてからよほどのことがない限り、ずっと身に着けていたから。

 すっかり体の一部となっていて、はずすのを忘れていた。


―――もう、必要ないよね。


 私が立ち止まっていたのは大きな川が下に流れる橋の中央。

 リングをそっと抜き取り、手すりの外へと握った手を伸ばす。





 このリングをくれた時、『すっと一緒だよ』と言ってくれたアキ君。

 言葉どおりに、これまでずっとそばにいてくれた。


 彼といた時間は、きっと、何があっても忘れることはできない。


 だから、捨ててしまおうと思った。


 彼との思い出の品も。

 彼の想いを。

 そして、彼への想いを。


 想い出にすがって生きるみじめな自分は見たくない。




 握った指を1本ずつ開く。


 親指。

 人差し指。


 あと1本も開けば、手の中のリングは川へと落ちるだろう。
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