声にできない“アイシテル”
 自分が住む地域に近づくにつれ、騒がしくなっていく。


 夕暮れ時はいつも静かな場所なのに。

 救急車や消防車がけたたましくサイレンを鳴らし、何台も走ってゆく。


―――何があったの?

 胸騒ぎを感じながら家へと急いだ。




 家の扉を開けたとたん、5歳上の同室者である裕子さんが飛びついてきた。

「よかったぁ、無事だったのね」


 普段はおっとりとした裕子さんなのに。

 こんなにあわてているなんて、どうしたのだろう。


 首をかしげる。

 すると裕子さんの肩越しに、テレビの画面が目に入った。



 生中継をされているのは市街を走る路線バス。


 だけど、映し出されているバスはなぜか横転している。

 しかも窓ガラスは全部割れていて、全体が黒くすすけていた。


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