声にできない“アイシテル”
 真剣な顔で私を見ている。

「どうして、イギリスにいるんだい?」


 私はゴクン、と息を飲んだ。
 

 答えようとしない私に、お兄ちゃんが改めて尋ねる。

「ここで何してるの?」


 何かを探り出そうというような、まっすぐな視線。

 
 私は戸惑いながらも笑顔で返す。

“えと。
 そ、それは・・・。
 絵本の勉強に来ていて・・・”


「なるほどね。
 イギリスは児童文学に造詣が深いしな。
 有名な作家さんも多いし。
 チカちゃんがここに留学するのも分かるよ」

 私の言葉に大きくうなずいてくれるお兄ちゃん。


“う、うん。
 そうなの”

 その様子を見て、ちょっとほっとする。


―――・・・ウソはついてないもん。


 ただ、それが『真実の一部』というだけ。

 真相の大部分が他にあるというだけ。 
< 365 / 558 >

この作品をシェア

pagetop