声にできない“アイシテル”
 お兄ちゃんが運転する車で連れてこられたのは、病院だった。

 昨日の事故でケガをした人たちがここに収容されている。


―――私に何の用があるんだろう?
   裕子さんのことかなぁ。


 お兄ちゃんはずっと難しい顔をしているから、訊きにくい。



 無言のまま廊下を進み、ある病室の前で止まった。

「チカちゃんに会って欲しい人がいるんだ」

“私に?”


 ますます意味が分からない。

 お医者さんでも、看護婦でもない私が、なんの役に立つんだろう。


 思いっきり不思議そうな顔をすると、お兄ちゃんは少し苦笑い。

「ケガの治療をしてもらうわけじゃないから。
 そんなに不安がらないで」

“あ・・・、うん”

「でも、すごく驚くかもしれない」

“驚く?”


 お兄ちゃんは意味深な言葉とともに、病室の扉を開ける。


 私は1人で中に入っていった。

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