声にできない“アイシテル”
「うわぁっ!」

 病室の外に立っていたお兄ちゃんが驚いて大きな声を出す。


 私はそれにかまわず駆け去ろうとした。

 が、パッと手首をつかまれる。


「チカちゃん、どこに行くの?!」

“放してっ!!”

 私はお兄ちゃんから逃げようとする。

―――早く、早くここから逃げなくちゃ!!

 お兄ちゃんの手を振り解こうと、必死で暴れる。



「ちょっと!
 落ち着いて!!」

 グッと肩を押さえられ、私は動けなくなった。




 私が逃げるのをやめると、ようやく解放される。


「何で逃げるんだよ?
 あの人、桜井さんだろ。
 チカちゃんの彼氏だよね?」


 そう訊かれて返事に困った。

 
 彼の名前は桜井で間違いない。

 だけど、今はもう彼氏と呼べる存在じゃない。
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