声にできない“アイシテル”
「桜井さんってさ、あのホテルグループの関係者でしょ。
 テレビで顔を見たことあるよ」

“うん。
 現社長の息子。
 養子だけど”

 それを聞いて、お兄ちゃんはベンチの背もたれに身を投げ出した。

「はぁ、大きな組織の一員って大変なんだな。
 恋愛も思うようにならないなんてさ。
 たとえ金がなくても、好きな人とは一緒にいたいよね」

 独り言のようなセリフ。

 でも、私の耳にしっかりと届く。


―――やっぱり、お兄ちゃんは別れた理由に気付いていたんだ。


“そうだね・・・”

 私は苦笑いを浮かべ、空に視線を向けた。









 沈黙の後、お兄ちゃんが歯切れ悪く話を始める。

「こんなこと、今のチカちゃんにお願いするのは酷だと思うんだけど・・・」

“どうかしたの?”

「桜井さんに言われたんだ。
 “さっきの女性に会わせて欲しい”って。
 “どうにか連れてきてくれ”と頼まれた」


“え・・・?”

―――どういうこと?
   私と会う理由なんてないはずなのに。

 戸惑いが私を襲う。
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