声にできない“アイシテル”
 部活に入っていない俺は帰り支度を始める。

「小山、帰ろうぜ」


 水泳部だった小山はすでに引退しているから、この時期は俺と同じく帰宅部。

 俺が声をかけたところに、

「おーい、小山。
 大野さんがお前に用事だって」

 ドアのところにいた男子が大声で呼んでいる。


―――“大野”って、昨日の子だよな?

 何気なく目を向けると、ドアの手前で少し恥ずかしそうに立っているあの少女がいた。



「あれ?
 チカちゃん、どうしたの?」

 小山が駆け寄って声をかけた。


 俺の時と同様に、彼女は筆談で小山と何やら楽しそうに話している。

 下を向いてペンを走らせるたびに、つやつやの黒髪がサラリと揺れる。


 この学校の女子は全員と言っていいほど、茶色にカラーリングをしている。

 なので、彼女のような黒髪はかえって目立つ。 
 


 だからだろうか。


 俺が彼女から目が放せないのは・・・?



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