声にできない“アイシテル”
 私は両手で顔を覆う。

―――ああ、ダメ。
   勘違いしてしまいそう。


 彼が私を捜しに来てくれたんだと。

 アキ君の心の片隅にはまだ、私が存在していたんだと。


 お兄ちゃんの話は、そうとも受け取れる。


 嬉しい。


 だけど、危険だ。







 

「彼が出国するまでの数日間だけでも無理かな?」

 不安そうな口調で、私に尋ねる。


“それは・・・”

 私は簡単にはうなずけないでいる。


―――もし、私と会ったことがきっかけで、記憶が戻ってしまったら?!


 叔母様には、彼と二度と会わないと約束した。


 不本意な約束とはいえ、破るわけにはいかない。

 桜井グループに関わるたくさんの人の生活を脅かすことなんて、絶対にしたくない。


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